いばらきの食に挑戦する人たち
樹上完熟を基本としたりんご作り 塙 正比古(大子町)
時代のニーズに柔軟に対応
奥久慈りんご園
奥久慈りんご園 カート
茨城県は、たくさんの観光果樹園がある果物の里。実りの秋にはさまざまな種類の果物狩りが体験できます。 県の北西部に位置する山間地・大子町は、県内一のりんごの生産地で、りんごの観光果樹園が多く、9月中旬~12月には、県内外から多くの観光客でにぎわいます。 そんな大子町にある「奥久慈りんご園」は、昭和30年頃から続くりんご園。代表の塙正比古(はなわまさひこ)さんは、JA常陸大子町リンゴ部会の会長を務めています。 塙さんの畑では、30種類を超える品種の育成を行っており、時代と共に変わっていく、消費者の「おいしい」に柔軟に対応しています。そんな姿勢が消費者にも伝わり、最盛期には一日に100人単位の観光客が訪れる人気の観光りんご園となっています。また、りんご畑の山間をカートで登ってりんご狩りができるというテーマパーク感覚が楽しめるのも、人気の秘訣のようです。
樹上完熟
塙さんをはじめとした大子町リンゴ部会の会員達は皆、“樹上完熟”を徹底しています。 「樹の上で完熟させるりんごはね、うまいんです。とにかくうまい。それをお客さんの手元に届けられる唯一の手段が、直売なんです。」量を求められる市場には出荷せず、地元でのみ販売する。ここでしか買えないという特別感が、茨城ブランド『奥久慈のりんご』を守り続けられる理由のようです。
土づくりと、整枝剪定
おいしいりんごを作る基本はやはり土づくり。塙さんは、牛フンたい肥、カニ殻、卵殻などでたい肥づくりを行い、畑にまきます。こうした有機質の肥料が元気な土を作り、丈夫な樹を育て、おいしいりんごが実ります。また、りんごの味を決めるといわれるのが、整枝剪定(せいしせんてい)作業。 「りんごの葉50~60枚に対して一つの実をならせると良いりんごができると言われているので、それを目安に整枝剪定作業をします。樹の状況に応じて行うことが重要ですね。春になり、花が咲いたら摘花、摘果を行い、摘果作業は収穫直前まで続きます。」 この一連の作業こそがりんごの良し悪しを決めるポイントだそうです。
りんごは太陽が作る
りんごの栽培は、平均気温6度~14度が適地といわれ、更に夜温が下がり寒暖差の大きい気候が適しているといわれています。外気温が低下する秋は、着色も進み、糖度も高まります。大子町は県内一寒暖差のある地域。まさに適地適作といえます。 「りんごは自然と太陽が作るもの。人間は少しその手伝いをしているだけです。」と塙さん。塙さんのりんご畑には、場所によって地面に白いシートが敷いてあります。これもその“手伝い”の技術のひとつなのだとか。 「樹にたくさん太陽の光を当てて、畑の風通りを確保する“通風採光”を行います。りんごは太陽の光で赤く色づくものなので、陰になっている部分にも光を当てる為にこの方法を取っています。しかしこれだけでは全体に均一に光は届きませんから、実のひとつひとつを見ながら周りの葉を取るなど、光が当たるように工夫します。」 奥久慈りんご園では、奥様のアイディアで、光とりんごの性質を利用した、『文字や絵入れりんご』の栽培にも取り組んでいます。
幻のりんご
ここ数年、幻のりんごといわれる『こうとく』が大変な人気となっています。見た目は小さく、一見すると普通の小さなりんごですが、蜜がギッシリと詰まっていて、濃厚な甘さが特長のりんごです。 塙さんの畑にもこうとくはありますが、いつ収穫できるかわからないのが幻と言われる由縁なのだとか。 「こうとくは収穫時期が読めないんです。他の品種は時期になると一斉に実を付け始めますが、こうとくは一本の樹に収穫できそうな実をポロポロと付ける。こんなにも“じれったい”りんごはありません。収穫の手間は通常よりかかるのに収量がよめないので作るのをやめてしまう人も多いんです。」奥久慈りんご園にあるこうとくは基本的に予約販売ですが、運が良ければその場で購入できるかもしれません。
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塙さんに今後の展望をお伺いしました。 「毎年新しい品種を作ってお客さんに試食してもらっています。その時の反応は良くてもなかなか長期的には人気の品種として定着しません。“ふじ”や“シナノスイート”のように、りんごを代表するような品種をいつか茨城でも作れたら…と思っています。そしてもっともっとお客さんに喜んでもらえるりんごを作りたい。」りんごだけでなく、果物作りが楽しくてしょうがないと塙さんは語ってくれました。
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