いばらきの食に挑戦する人たち
よしくぼ園芸 吉久保 憲章さん(北茨城市)
ICTを活用したトマト作り
茨城県北茨城市にある「よしくぼ園芸」は、ICTを活用したトマト作りを行っています。ICTとは「Information and Communication Technology」(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)の略で、意味は「情報通信技術」。この農場では、ICTを活用して省力化や精密化などを追求し、農業のスマート化を進めています。 代表の吉久保 憲章さんがICTの活用に取り組み始めたのは2010年頃から。視察を兼ねた旅行でICT先進国のオランダを訪れた時に、完全にオートメーション化された農業に圧倒されたと言います。さらにフランスを訪れた際に、トマト農場とマルシェを視察し、「これだ!」と思ったそうです。 「オランダはどちらかというと質より量、味は最高とまではいかないと感じました。一方、フランスのトマト農場は小規模ながらも味にこだわったトマト作りをしている。パリのマルシェでいろいろな品種のおいしそうなトマトがズラリと並んでいる姿を見て、また、実際に食べてみて、その味と価格に驚きました。とてもおいしいけど高くない。それで、オランダとフランスのいいとこ取りをしたトマト作りがしたい!と思いました。ICTを取り入れながらも“味”にこだわり、それでいて手に取りやすい価格のトマトを作っていきたいと。」
タブレットで随時状況を見ることができる
帰国後吉久保さんは、「糖度6度を保ちながら、10アール当たり30トンの収量を目指す」と目標を定め、自社農場3棟のビニールハウスに徐々にICTを導入していきました。2021年現在は「AI自動潅水施肥システム」と「環境モニタリング装置」が設置されています。 「『AI自動潅水施肥システム』は、AIが自動で日射状況や土壌水分量のデータを取得し、作物の成長を考慮して予測した量の水や肥料を自動的に行ってくれるシステムです。『環境モニタリング装置』は、ハウス内の環境を把握し、複合環境制御盤や炭酸ガス発生装置等により制御・最適化してくれる装置です。」 この手法を取り入れた結果、「糖度6度、10アール当たり30トン」の目標に近づけることができました。しかし吉久保さんは言います。 「いくら機械があっても、それだけで品質や収量が上がるわけではありません。トマトの生理生態をきちんと理解し、熟練の経験がなければできません。天候も考慮に入れ、追肥のタイミング、ハウス内環境などは人が判断をする。自分も毎日必ず全ハウスの樹、葉、実の状態を見て周ります。より細かい設定に対応できるのがICTなんです。」
病害虫を出さない工夫
マルチの下には土、そして水や肥料を流すパイプがある。
ICTを活用していても、水耕栽培ではなく土でトマト作りを行うのが吉久保さんのこだわりです。地面いっぱいに張り巡らされたマルチ(※)の下には入念に作られた土があります。 「土で育てる方が、トマトの味がまろやかになる気がするんです。でも病害虫の危険と隣合わせなので、太陽熱による環境にやさしい土壌消毒を3週間行い、その後肥料とたい肥を入れて耕耘(こううん)します。また、納豆菌などの生物農薬を使用して病害虫の発生を抑えています」 こうした努力をすることで、安全かつおいしいトマトができるのです。 ※マルチ…土を保温・保湿しておくために土の上に敷くシートのこと。
日常使いの最高品質を目指す!
レッドカルチャー
白い線が放射状に出ているものがおいしい
吉久保さんのトマト作りは、完全なるマーケットインによる農業経営だと言います。マーケットインとは“ニーズを汲みとって製品開発を行うこと”。欧州視察の経験もさることながら、日本のバイヤーなどからのヒアリングや、実際に売り場でトマトを手に取る消費者の行動を観察して、自分は「日常使いの最高品質を目指したい」と思ったそうです。 「売り場を観察すると、普通の価格のトマトを手に取るお客さんが9割、フルーツトマトなどの高価格なものは1割といったところでした。それを見て自分は、9割のお客さんに向けて、そのなかでも一番おいしいと言ってもらえるトマトを作ろうと決めました」 吉久保さんは、部会員2名の「JA常陸 北茨城トマト部会」に属しており、同部会のブランド名は「レッドカルチャー」。品種は、味が濃く食味の良い“ごほうび”です。吉久保さん曰く、じゃじゃ馬のように育てるのが難しい品種だそうで、しかし、うまくできれば味は格別だとか。 味見させていただくと、食感がとってもなめらかで甘い!酸味はほぼ感じられず、ジューシーな味わいで何個でも食べられそうでした。 糖度8度以上の高糖度の「レッドパワー」も味見させていただくと、濃厚な甘さとジューシー感がたまりませんでした。 吉久保さんに『おいしいトマトの選び方』を聞くと、「赤色が濃くハリのあるトマトがおいしいです。また、トマトのお尻から放射状に白い線が出ているものは糖度があります。あとは気に入った生産者のものを選ぶことが一番です」とのことでした。
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「ICTを活用することで量は取れるようになりましたが、味はまだ気になる点があります。トマトは寒暖差のある冬から春先が最も味がのり、夏場はどうしても味や形が落ちてしまいます。この品質の差を無くしたい。一年を通していつ食べても安定した同じ味が出せるようにしていきたいです」 吉久保さんは「ICTを活用した農業を導入しないと損だ」と言い切ります。前述の通り、トマト栽培の知識がある者にとっては鬼に金棒・最強の武器となり、寝ている間にも機械が働いてくれるので高品質なものが間違いなくできる。休みも増えて、海外旅行中にタブレットを見ながら機械の操作もできるのだとか。これからは安定した味に挑戦していくという吉久保さんの、更なる活躍が期待されます。
インフォメーション | |
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名称 | よしくぼ園芸 |
住所 | 茨城県北茨城市中郷町粟野169 |
お問い合わせ |
TEL: 0293-43-4886
FAX: |
その他の情報 | ※このページの情報は、2021年3月時点のものです。 |
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