いばらきの食に挑戦する人たち
深谷果樹園 深谷一郎さん(笠間市)
大きい産地と違った視点でチャレンジする
深谷果樹園のぶどう
深谷果樹園のハウス
深谷果樹園直売所
笠間市南友部にある「深谷果樹園」は、昭和35年創業のぶどう農園です。代表の深谷一郎さんが栽培するぶどうは、シャインマスカット、瀬戸ジャイアントなどの“欧州系”と呼ばれ、“皮ごと食べられる手軽さ”などから近年急激に人気を集めています。 深谷さんのぶどうは、美しく、高品質で味が良く、県内外の百貨店で高値販売されています。マーケティングを担う、息子の聡(さとる)さんは、タイやマレーシアへの輸出も手掛け、国内外から高い評価を受けています。 県内の主なぶどう産地は、常陸太田市、石岡市、かすみがうら市などですが、「大きい産地と同じ品種を作り、同じ売り方をしても、この先は生き残れないと思った。産地間の競争ではなく、大きい産地と違った視点で多品種・新品種の栽培に取り組み、自ら直売する新しいスタイルにチャレンジした」と深谷さんは語ります。 深谷さんが父から経営を引き継いだのは昭和52年頃。研修先の山梨県から戻り、そこで学んだ欧州系ぶどうの施設栽培(ビニールハウス内での栽培)にチャレンジしようと決めました。「当時は周りで誰もぶどうの施設栽培をやっていませんでしたが、自分で図面を引いて、資材を買ってきて、ビニールハウスを自作しました。行き詰まると、建業関係の知り合いが力になってくれて、仲間に恵まれていました。多くの人の助けがあって今があります」と深谷さん。現在も、ハウスは自作だそうです。
土づくりにこだわった“盛り土栽培”
深谷果樹園のぶどう
深谷果樹園 盛り土栽培
盛り土アップ
深谷果樹園のぶどう
一般的なぶどうは、樹を植えてから実を収穫できるようになるまで、「最低でも5年はかかる」そうです。多品種・新品種の栽培に取り組むにあたって、「収穫まで5年もかかるのでは採算が合わない」と考えた深谷さん。懇意にしていた土壌分析のコンサルタントと共に、ぶどうを2~3年ほどで収穫できる栽培技術の確立に成功しました。“盛り土栽培”という独自の技術を用いることで、この技術によって、毎年2~3種類の新しい欧州系ぶどうの試験栽培が可能となり、「お客さんの反応を見ながら作る品種を変える。」といった、他山地とは違った取り組みもも可能となりました。 「ぶどうの樹は、根が必要な栄養分を探すように、あちこちに伸びていき、栄養を取り込んで成長していきます。樹の周りに平らに均等に栄養分を入れた場合、根が広範囲に伸びるのには時間がかかります。また、ぶどうの根はどこに伸びているのか判りにくいので、根のSOSに気づくことができない。何年も経ってから“根がダメになっていた”と気づいても遅いんです」と深谷さん。 一方で、「“盛り土栽培”は、樹の真下に盛土を形成することで、根が長く伸びることなく効率的に栄養が取れて、樹が早く成長します。また、盛り土を少し掘ればすぐに根が見えるため、SOSに早く気づくことができます。当然、すぐに必要な対処をすることもできます。だから2~3年ほどで収穫できるんです。」と語ります。 “盛り土”に使う土は、深谷さんが6~7年かけて草などを発酵させ、そこに昆布などの海洋ミネラル分を加えて作った特別なものです。実際に盛り土を掘ってみると、フカフカと柔らかく、糸のような細かい根がビッシリ。この細かい根こそが、「土の養分が樹や果実に行き渡っている証拠」なのだそうです。 この技術で多品種栽培に成功した深谷さんは、息子さんが就農した平成14年から露地栽培を止め、全てを施設栽培に移行するとともに、2.5ヘクタールあった畑を1ヘクタールに縮小し、巨峰以外はすべて欧州系のぶどうに統一するなど、当時のぶどう栽培とは一線を画した経営にチャレンジしました。
「あと味」にこだわったぶどう作り
深谷果樹園のぶどう
深谷さん作業風景
「食べ終わったあとの香りを最も重視しています。口に入れた時に甘みが来て、次に酸味が来て、飲み込んだあとに爽やかな香りが残る、そういう風に楽しめるぶどうを意識して作っています」と深谷さん。 深谷さんが理想とするぶどうの味は、新枝の先端を摘み取り、粒を大きくする「摘芯(てきしん)」や、土の養分を十分に実に届けるために不要な枝を取り除き、狙った葉を充実させる「枝かき」などの手入れを丁寧に行うことで生まれるといいます。ほかにも、樹の生育状況によってさまざまな技術を使い分け、「とにかく毎日畑に足を運び、1本1本の樹を細かく観察すること。これに尽きる」のだそうです。
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深谷果樹園の直売所は、8月の巨峰から始まり、9~11月まで、シャインマスカットやハイベリー、アレキサンドリア、瀬戸ジャイアンツ、ほほえみ、バイオレットキングなどの欧州系ぶどうが常時6種類ほど並び、最盛期は毎週といっていいほど販売品種が入れ替わります。 「もう一段、二段優れたぶどうを作る為にはどうしたらいいか、常に考えています。上には上がいますから。ぶどうは同じ作り方をしても作り手や土地が変われば味が変わる、奥深い作物です。ここがゴール、というのはありません。いつか、自分がいち早く栽培に取り組んだ新品種が、シャインマスカット(※)のような全国的な人気の品種になってほしい。これからも手を抜かずに“あと味”にこだわり続け、さらに“食べて健康になる”ようなぶどう作りを目指したい。」 また、全国から“盛り土栽培”の視察依頼が後を絶たないことについても、「うちは情報はオープンにしています。隠してやっていたら、自分も成長できない。生産者がお互いに情報交換することで、自分も新しい技術に触れることができる。時間はとられてしまうけど、得られるものも大きい。」と言います。 「深谷果樹園」のぶどうの味は、チャレンジを恐れず、研究熱心、そして謙虚な深谷さんの人柄を物語っています。 ※シャインマスカット…果実の売れ筋期待値ランキングにおいて、平成23~28年まで、6年連続となる第1位を獲得し、全国各地で栽培されている人気品種。大粒で糖度が高く、ボリューム感があり、外観、品質に優れています。
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