いばらきの食に挑戦する人たち
原木しいたけ栽培の先駆者 飯泉 孝司さん(つくば市)
抜群の歯ごたえ!「原木しいたけ」
なかのきのこ園 原木しいたけ
なかのきのこ園入口
なかのきのこ園 選別作業
しいたけの栽培には、『菌床(きんしょう)栽培』と、『原木(げんぼく)栽培』の2種類の方法があります。菌床栽培は、オガクズや米ぬか等を人工的に加えて固めた“菌床”にシイタケ菌を移植して5~6カ月程菌を栽培するもの。一方、原木栽培は、クヌギ、ナラ等の原木に、ドリル等で穴をあけ、シイタケ菌を移植して、1~2年間ほど森林などの自然環境下(一部はハウス内)においてきのこを栽培するものです。 つくば市中野地区でしいたけの栽培を行う「なかのきのこ園」では、創業当初から「原木栽培」にこだわり、農薬や除草剤などを極力使わず、肉厚で濃厚な味わいの原木しいたけを育てています。 「菌床しいたけは、見た目が良くふんわりとした食感。原木しいたけは、香りが良く、“山のアワビ”と称されるほど弾力のある食感が特徴。うま味成分のグアニル酸を多く含み、食べ比べればそのおいしさが分かる。」と語るのは、代表の飯泉孝司さん。 なかのきのこ園では、自然のなかで1年以上かけて原木に菌をまわす「むかしながらの栽培方法」にこだわりつつ、新たな設備を導入するなど、一年を通して原木しいたけを栽培・出荷しています。
飯泉さんが原木しいたけの栽培を始めたのは、昭和43年頃のこと。祖母が少しだけ作っていた原木しいたけのおいしさを、「沢山の人に知って欲もらいたい」と思ったことがきっかけだったそうです。 秋の味覚として知られる原木しいたけは、通常、春と秋に旬を迎えます。また、原木に菌をまわすまでに1~2年かかることから、栽培の手間は菌床しいたけの倍かかります。しかし、飯泉さんは「より多くの人にあの味を届けたい。」と、家族の協力のもと、近隣の有志と共に“しいたけ研究会”を発足しました。仲間と共に、「どうしたら原木しいたけを周年出荷できるか」などを研究し、年間を通じて原木しいたけの栽培に適した環境を維持するため、園内にエアコン付きのビニールハウスを整備するなどにより、原木しいたけの周年栽培・出荷を実現しました。 「当時(昭和43年頃)、つくば市内で原木しいたけを作っている人はいませんでした。そのため、しっかりとした組織を作って市場向けに出荷できるようにしました。当時は生産者が少なかったので、県内の市場でも高値で売れました。」
品質を損なわず、大規模生産を実現
しいたけ研究会が作る原木しいたけは、都内の市場でも高い評価を受けました。その一方で、生産者が増えるにつれ、市場への出荷量が増えた為に価格が下がってしまうということがおきました。 「いくらで取引されるか分からない状態では、経営は安定しない。市場以外で自ら原木しいたけに値段を付けて売ることはできないか」と悩んでいた矢先、飯泉さんの元に、生協(現在のパルシステム)から声がかかりました。 「昭和60年頃、生協から話がありました。しいたけ研究会の皆で話し合い、そのうち私を含む半数の会員が生協に卸すことを決めました。」 飯泉さんは、このことをきっかけに「JAつくば市谷田部産直部会青年部」を結成。そのなかに、きのこ部門、米部門、野菜部門…など6つの部門を作り、生協との取り引きを始めたそうです。 時代の流れと共に、生協の個人宅配のニーズが増え、原木しいたけの注文は年々増え続けたと言います。多くの注文に応える為、飯泉さんは、栽培規模を1万2千坪(ハウス55棟)にまで拡大。品質第一を掲げ、ビニールハウス内に鉄骨を組み、人が原木に触れることなくトロッコで原木80本を移動させることができる“ラクナール”という設備を導入しました。このことにより、生産者一人が扱える原木の量が2万本までに増え、さらに、原木の検査を徹底し、産地ごとにシールを貼り、芽出し室やホダ場(しいたけにとっての畑)など、原木の成長ごとに細分化された工程管理体制を構築するなど、原木しいたけの大規模生産、高品質化に成功しました。
原木しいたけで里山再生!
飯泉さんは、なかのきのこ園の代表であると共に、「東日本原木しいたけ協会」の代表理事、「NPO法人里山再生と食の安全を考える会」の理事長も務めています。 「原木しいたけは、20~25年の歳月をかけて育ったコナラ・クヌギなどを伐採し、木に菌を打ち込んで栽培します。伐採した木々は、萌芽更新(ほうがこうしん)(※)によって若返らせることが可能です。原木しいたけは、実は環境保全循環型農林業の代表例なのです。我々生産者や関連事業者にとって、平成23年の福島第一原発の事故や、それに伴う風評被害は、いまだに残る大きな問題です。しかし、ただ手をこまねいているわけにはいきません。植林活動など、原木のふるさとである里山の再生に取り組むとともに、生産者としては、原木の検査を徹底するなど、できることは全てやっていこうと活動しています。」 ※萌芽更新とは…伐採した木々の切り株や木の根元から伸びた芽が生長し、やがて新たな樹林を構成すること。
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「うちは、スタッフそれぞれに持ち場があり、栽培、収穫、選別の一切を任せています。若手や女性が元気で、本当にありがたい。経営はほぼ息子に任せていますし、私は相談役みたいなものです(笑)。現状、生産に多くのコストや場所が必要となる原木しいたけの国内生産量は、年々下がっています。そこで、平成24年に『東日本原木しいたけ協会』で、原木しいたけ生産者の全国組織『森のゆかり』を立ち上げました。北は岩手県、南は静岡県までのパワーあふれる次世代の担い手の集まりです。まずは、彼らにしっかりと原木しいたけの栽培方法を教えて、“しいたけを作って良かった”と思ってもらえるような基盤作りをやらないといけないと思っています。」 なかのきのこ園では、平成8年に、きのこ狩りとバーベキューが楽しめる施設を作るなど、新たな客層の獲得にも力を入れています。また、毎年近隣幼稚園の園児とその家族がきのこ狩りを楽しみに来てくれるなど、その取組は着々と広がりを見せています。また、飯泉さんが理事を務める『農事組合法人 森のめぐみ』では、原木しいたけを使ったクッキーなどの加工品も販売しています。 飯泉さんは、「生産者が少なくなっている今だからこそ、自治体、生産者や販売者が消費者と交流を持ちながら、情報を交換していくことが大切なのだ」と言います。
インフォメーション | |
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名称 | なかのきのこ園 |
住所 | 茨城県つくば市中野169 |
お問い合わせ |
TEL: 029-836-6003
FAX: 029-836-6048 |
その他の情報 | ※この情報は、平成29年10月時点のものです。 |
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