いばらきの食に挑戦する人たち
新利根協同農学塾農場 上野 裕(稲敷市)
新利根協同農学塾農場
上野 匠さん
広がる草原と抜けるような広い空、放たれた牛たち。まるで北海道のような景色のなかにある牧場は、茨城県稲敷市の上野 裕(うえの ゆたか)さんが営む「新利根協同農学塾農場」です。 新利根協同農学塾農場は、上野さんと奥様の知子さん、息子の匠さんの3人で運営しています。匠さんは同農場の跡を継ぐべく多くの仕事を任されています。「父の仕事を見ていて、おもしろそうだと思いました。とても大変だけど、やりがいを感じている」と言います。 同農場で行っている「放牧酪農」は、牛が牧草地をつくり、牧草の自給を行いながら牛を育てる農法で、飼料や大型機械のコストを減らせるほか、朝晩エサをやる労働時間も減り、牛が運動してよく牧草を食べることで健康な牛が育つといわれています。 放牧牛の搾りたてのミルクをいただくと、色は黄色みがかって、さらりとした口あたりの中に豊かな甘みがあります。 「おいしいでしょ。でもうちの牛乳は全て全農さんに出荷してるから、買えないんだよね」と笑う上野さん。 全国的にも今は珍しい「放牧酪農」を、なぜ上野さんが選択したのか取材してきました。
行きついた「放牧酪農」
昭和22年(1947年)、同農場と周辺地域の稲敷市市崎に15戸の農家が入植しました。 上野さんは開拓者の3代目として父から経営を引継ぎましたが、継いだ当初は放牧ではなく牛舎で牛を育てる「舎飼い」をしていました。 「ある時牛乳の暴落と飼料の高騰が続き、牛飼いを続けるかどうかとても悩みました。悩んだ末に行きついたのが“放牧”だったんです。それまでは“舎飼い”で、とにかく牛乳の量を取るというやり方でした。」 「2005年に放牧に転換しました。放牧は、舎飼いに比べて量は減りますが、圧倒的にコストが削減できるので、うちのような僕と妻と息子の小さな牧場には向いていると思いました。」 ニュージーランドは放牧先進国で、放牧により酪農家の収益を上げているそうです。日本でも関東で放牧酪農を行う牧場は珍しく、茨城県では今では唯一上野さんが放牧酪農に転換しました。 「放牧酪農のいいところはたくさんあって、まずは土→牛→ふん尿→草がシンプルに循環できるので、食べる世話や下の世話などを人がやらなくていいこと。ふん尿は、草を育てる土の良い肥やしになります。」 農場の1頭あたりの年間乳量は約6,500kg。驚くべきは、牛たちの現役寿命が長いことです。放牧で足腰が強い母牛はお産にも強く、病気も少なく医者いらず。牛乳を出してくれる期間が舎飼いの牛の平均より約4年も長いのだそうです。 「1頭の牛を長く飼うと、子牛をいっぱい飼わなくていいので低コストになります。牛に無理をさせずに、健康維持に努めて長く飼おうというのが放牧のスタイルです。舎飼いの時より乳の量は減りましたが、コストが格段に減り、牛が健康で長寿命になったお陰で負のサイクルが好転しました。悩んだけれど、うちには放牧という経営方法がベストだったと今では思います。」 驚くことに、放牧に切り替えた年から利益が上向きになったそうです。
牛たちの行進
上野さんの農場の広さは14haあり、牛舎等を除いた13haのうち6haの牧場に約30頭の搾乳牛(ホルスタイン種・ジャージー種)を放し、7haの土地で牧草を育てています。 牛たちは、冬は牛舎で過ごし、春から秋にかけて草地に放牧されます。 放牧中の牛たちの所におじゃますると、人を怖がる様子は一切なく、各々が草を食べたり、寝転んだり、じゃれあったり。なんとも幸せそうに過ごしている姿がありました。 その日の放牧が終わり、上野さんがゲートを開けると牛たちは勝手知ったる牛舎までの道のりを綺麗に並んで行進して家路につく姿が印象的でした。
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上野さんに今後の展望をお聞きすると、「『放牧は絶滅に向かっている』と言う人もいるけど、僕は初期投資が低く、人手もいらず、利益がちゃんと出るので、若い人たちが挑戦するには良いやり方だと思います。だから、放牧を始めてくれる若い人が増えたらいいなと思います。」 「あとはこの美しい集落を守っていくことですね。この景色やできた牛乳は僕のものであって僕のものじゃないんです。先人たちが築き、守ってきてくれたから僕たちはここでこうして生きていけてるわけで。工夫をして地域の資源を回しながら、農場の経営を続けられたらと思っています。」 「新利根協同農学塾農場」の隣には、「新利根チーズ工房」というチーズ工房があります。ここは、上野さんの作る牛乳の味に惚れ込んだ店主 西山さんが同農場の牛乳を100%使ったチーズを作っています。 西山さんのように、上野さんの想いに共感する人も出てきているのです。
インフォメーション | |
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名称 | 新利根協同農学塾農場 |
住所 | 茨城県稲敷市市崎2431-1 |
お問い合わせ |
TEL: 080-4079-0369
FAX: |
その他の情報 | ※このページの情報は、2020年12月時点のものです。 |
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