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茨城の漁業をつくり・育てる 茨城県栽培漁業センター
茨城の漁業をつくり・育てる
茨城県栽培漁業センター
茨城の漁業を支える「栽培漁業」とは
自然界の魚介類にとって、最も生き残るのが難しいのが卵や生まれて間もない時期。「栽培漁業」とは、有用な魚介類を人の手で卵から“種苗”と呼ばれる稚魚・稚貝に育てて海に放流することにより、これらを増やしながら漁獲する取組みをいいます。限りある海の恵みを持続的に利用していくため、栽培漁業は全国各地で取り組まれています。茨城では、茨城県栽培漁業センター(以下「センター」)を拠点に種苗が生産され、県内各地で放流が行われています。
今回は、センターを運営する公益財団法人茨城県栽培漁業協会(以下「協会」)のセンター長兼魚類科長の山田浩さんと、貝類科長の鶴見祐輔さんに茨城の栽培漁業についてお話を伺いました。
1.茨城の栽培漁業を牽引するツートップ
センターは、鹿島港北端にある約2万6千平米の広大な敷地で、時間あたり最大900トンの海水を取水して種苗を大量生産する栽培漁業の拠点施設です。現在(平成30年)、ここで栽培漁業の対象として種苗生産に取り組んでいるのは、ヒラメ、マコガレイ、ソイ類、鹿島灘はまぐり、アワビの5種。このうち、種苗の生産技術が確立し、安定した放流効果が得られているのがヒラメとアワビです。
ヒラメは、10センチの大きさで85万尾放流する目標で種苗が生産されています。ふ化から放流までは約3カ月で、放流後、天然の海で漁獲サイズの30センチまで育つのにさらに1年ほどかかります。「放流した種苗がどれくらい漁獲されているか調査もしており、茨城で漁獲されるヒラメのうち、1~2割がセンターで生産したものだということがわかっています。以前はセンターで生産したヒラメには“黒化”が多く含まれており、これを目印に天然魚と放流魚を見分けていましたが、最近は黒化がほとんどいないので、漁師さんに“ちゃんと放流してるの?”なんて聞かれることもあります。」と笑顔で山田さん。
黒化とは、人工的に生産されたヒラメやカレイの無眼側(眼がない白色の面)に黒い模様が出ることをいいます。身質や味に全く違いはありませんが、見た目が原因で市場価値が下がってしまうため、協会が研究に取り組み、黒化を出さない生産技術を開発しました。稚魚に与えるエサの量や与え方を改善することで黒化を防ぐこの技術は『茨城方式』と呼ばれ、他県の種苗生産機関でも広く採用されています。
アワビは、3.5センチの大きさで30万個放流する目標で種苗が生産されています。放流サイズに育てるのに約2年かかり、放流後、天然の海で漁獲サイズの11センチまで育つのにさらに3年以上かかります。「地区ごとで差はありますが、茨城で漁獲されるアワビのうち、約半分がセンターで生産したものだということがわかっています。センターで育ったアワビは殻の一部が鮮やかな緑色になるので、これで天然貝と放流貝を見分けます。アワビは年輪を重ねるように成長するので、緑色の部分は放流した後も残るんです。」鶴見さんは、そう言いながら、一部に緑色が残る11センチほどの殻を見せてくれました。
2.トップを目指す後続者たち
センターでは、ヒラメやアワビのように安定して種苗が生産できるよう、魚類ではソイ類とマコガレイ、貝類では茨城のブランド貝・鹿島灘はまぐりの技術開発に取り組んでいます。
「ソイ類もマコガレイも漁師さんから放流を待望されています。マコガレイは、今年から水槽を大型化して量産技術の開発にステップアップしましたが、ヒラメで培った技術が応用できることがわかり、順調に開発が進んでいます。まだまだ課題は多いですが、期待に応えられるように頑張ります。」と山田さん。
鶴見さんも「日本には内湾性と外洋性の2種類のハマグリが生息しますが、後者の種苗生産に取組んでいるのは茨城だけです。外洋性の鹿島灘はまぐりは環境にデリケートなので安定生産が非常に難しいのですが、漁師さんの関心と期待が特に高いブランド貝、なんとか技術を確立したいです。」と意気込みを語ってくれました。
さらにセンターでは、既設の大施設と協会の技術力を活用して、県内の河川に放流するためのアユの種苗生産も行っており、海だけではなく、川の恵みもつくり育てています。
3.つくり育てる技術・経験・努力
センターで育てている生き物は稚魚や稚貝だけではありません。全ての種苗生産においては、天然の魚や貝を種苗生産用の親に仕立てて卵を産む状態に整えるところから始まります。また、種苗のエサとなるプランクトンを培養するのも重要な仕事。種苗の種類や成長段階に合わせ、様々な種類のプランクトンが培養されています。エサは種苗の生き残りや成長の善し悪しを左右する重要な要素なので、与える量やタイミングのほか、栄養面での研究にも取り組んでいます。
一年のうち、産卵期は、アワビが2回(春・秋)で、その他はたったの1回だけ。協会の技術者たちは、その数少ないタイミング、様々なことを試行、観察し、生き物たちと言葉を使わずコミュニケーションをとりながら技術や経験を高めていくのです。「何年やっても生き物をつくり育てるのは本当に難しいです。それだけに、計画通りにつくることができた時や、漁師さんから“いい種苗だね”などと言われた時はとても報われた気持ちになります。」と二人は感慨深げに語ってくれました。
魚介類の生活史のうち、初期の一部の成長を人の手で補い、その後の成長は自然の海の力に任せるのが栽培漁業。加えて、海の力で成長する間も、漁師さんをはじめとした関係者により、ヒラメは30センチ以上、アワビは11センチ以上など、それぞれ種類ごとに決められた大きさに成長するまでは徹底して漁獲をしないよう管理され、大切に育てられます。さらに、地区ごとで、種苗を生き残りが良くなるような場所や方法で放流したり、独自に厳しい漁獲サイズを設けたりという取組みも行われているそうです。このように、茨城の海の恵みを将来にわたり享受し続けるため、関係者の技術と努力により、茨城の漁業はつくり育てられているのです。
4.茨城の栽培漁業にふれる
センターには、ビデオ・パソコンなどで魚や漁業が学べる「展示コーナー」や、ヒラメ・マコガレイなどの観察・エサやり体験ができる「屋外展示池」、海の生き物に触れられる「タッチ水槽」など、一般の方が茨城の栽培漁業にふれることができる設備も充実しています。
センター見学について
入 場 料 | 無料 |
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予 約 | 一般:不要 団体:要予約 |
見学時間 | 10:00~16:00 |
閉 館 日 | 土曜日・日曜日・祝祭日・年末年始 |
お問合せ | 公益財団法人 茨城県栽培漁業協会 住所:茨城県鹿嶋市平井2287 電話:0299-83-3015 ホームページ:http://www.i-saibai.or.jp/ |
※このページの情報は2018年9月時点のものです。
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