いばらきの食に挑戦する人たち
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有限会社常陸牧場 矢吹和人さん(大子町)
山間部の環境を活かした養豚
代表取締役の矢吹さん。「豚も人間も健康が一番!」と言います
常陸牧場では繁殖から肥育まで一貫経営
茨城県では、地域や生産者ごとに特色ある個性豊かな銘柄豚が生産されています。茨城県北端の大子町で養豚を営む常陸牧場が生産する銘柄豚が「橅豚(ぶなぶた)」です。奥久慈の自然豊かな山あいに設けられたSPF認定農場で、衛生的かつ肉質を重視する工夫を凝らした一貫経営を行っています。 「ここ大子でずっと養豚をやっていて、もうすぐ経営50期になります。農場全体の面積は60ヘクタールもありますが、実際に使っているのは10ヘクタールぐらいなんですよ。ほとんど山なので(笑)」と気さくに話してくれたのは代表取締役の矢吹さん。常陸牧場の特徴のひとつに、この山間部の地形をうまく活用した豚舎設計があります。 「山の斜面を利用して、豚舎を3つのエリアに分けて棚田のように造成しています。上から繁殖~肥育と成長するごとに順をおって山の下に移動させていくんです。風の抜けが良いのも、豚を育てるには好条件です」と矢吹さん。また、空きの豚舎を常にひとつ確保しており、豚舎を移動する際に完全に空にして充分な洗浄・消毒作業を行うことができるオールイン・オールアウト方式で病気の伝播を防止しています。 現在は肥育豚に加え母豚約650頭、雄豚等すべて合わせて9,000頭超を飼育。繁殖面の研究研鑽にも余念がなく、人工授精用の精液を自家採精しているのも矢吹社長のこだわりのひとつです。種雄豚からの自家採精は高い技術と知識が必要とされるため人工授精用精液を購入して使用するのが一般的ですが、自家採精を可能にしたことでコストダウンと効率化も実現したといいます。
リキッドフィーディングシステムを導入
リキッドフィーディングではメーカーと共同開発した餌を使用
豚に合わせた餌、豚に合わせた環境を整えて品質を向上
また、常陸牧場では飼料にも特色があり、「リキッドフィーディング」というシステムをおよそ7年前から導入しています。これは、液体で溶かした飼料をコンピュータで管理しながら与える仕組みになっており、飼育頭数や豚の体重変化に合わせた適正量をプログラムで給餌することができるもの。 「県内で先行事例もなかったんですが、豚舎を新しくするタイミングで一念発起して導入を決めました。イギリスからの輸入で、導入コストもメンテナンス費用もかなりかかりましたし、使いこなすには専門的な知識も必要ですが、それでも入れて良かったと思っています。うちでは、肉作りの時期になる出荷前の二か月をリキッドフィーディングで管理しています。豚は飼料1に対して水を3ぐらいの割合で与えるのが正常なんですが、夏は暑くて水ばかり飲んでしまうなど気候の要因でそううまくいかない。でも、このシステムなら飼料と水分をバランス良く与えることができて、豚の成長もバラツキが少なく均一に揃う。それに餌箱をひっくり返したりとかもなく衛生的でもある。良いことづくしなんです」と矢吹さん。このシステムの導入から生産もより安定するようになり、出荷頭数も年々増加しているといいます。 大量生産・大量出荷を重視しがちな生産現場において、「まずクオリティを担保したうえで、どれだけ数を増やせるか。いかに多産に近づけるか」を考えているという矢吹さん。そのための努力と投資は惜しみません。
環境と共に育まれる橅豚の美味しさ
数々の受賞歴など、市場からも高く評価を受ける橅豚
橅豚の由来になった牧場内のシンボリックなブナの木と
そんな常陸牧場の橅豚は、市場からも高い評価を得ています。東京食肉市場での銘柄豚協会枝肉共進会での最優秀賞受賞に加え、平成29年度の同市場豚枝肉共励会では最高賞を受賞。受賞枝肉の落札金額は史上最高額としてギネス世界記録としても認定されているというから驚きです。 橅豚の食味を矢吹さんに伺うと、「肉質は柔らかくて、臭みがなくあっさりと食べられます。また、肉の締まりが良くて、保水性がいい。取り扱ってもらっているスーパーからはドリップが出づらいという声もいただいています」といいます。橅豚は(ランドレース×大ヨークシャー)×デュロックを掛け合わせた三元豚の主流品種。血統的には決して特別とは言えませんが、明らかな食味の違いはやはり飼育環境とリキッドフィーディングシステムによる飼料の管理などによるものと言えるでしょう。品質の高さを保ちながらも、食卓に並ぶ日常の食材として手ごろな価格で手に入ると消費者からも支持を受けており年々需要が高まっているといいます。 また、矢吹さんは地域や環境との共生も大切にしており、浄化槽を設置し堆肥を活用した循環型の取り組みも行っています。バイオボイラーを導入し、乾燥させた堆肥を燃料として利用し豚舎の床暖房に使用。また、堆肥は無料で地域の農家にも提供しており、活用されているそうです。 長く続く酷暑や物価の高騰など、多くの生産者にとって過酷さを増していく情勢は養豚業にとっても例外ではありません。そんな中でも「求めてくれている消費者や取引先がいる限り、その期待を裏切らないように作って送り届けるのが使命であり責任」と力強く頷く矢吹さん。これからも、より多くの方に橅豚を届け続けます。
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現在、常陸牧場のスタッフは10名。20代~30代の若い世代が中心といいます。「現場のスタッフが8名なので、単純計算で一人あたりだいたい1,000頭の豚を見ていることになります。おかげさまで取引先からは出荷頭数を増やしてほしいという声をいただいています」と矢吹さん。ですが、今の母豚の数や設備、人員では限界があり、出荷頭数を更に増やすには規模拡大が必要ですがコスト面も難しい状況です。 規模拡大は今後の課題とし、喫緊の目標としては「スタッフが働きやすい、安心と安全に配慮した環境づくりの実現」を挙げました。 そんな矢吹さんの下で働くスタッフは非常に雰囲気が良く「豚にも丁寧すぎるぐらい優しいんですよ」といいます。そんな気質は豚にも伝わるのか、常陸牧場の豚はみな穏やかなのだとか。 茨城の養豚業を牽引していくパイオニア的存在です。
| インフォメーション | |
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| 名称 | 有限会社常陸牧場 |
| 住所 | 茨城県久慈郡大子町高柴4382 |
| お問い合わせ |
TEL: 0295-76-0111
FAX: 0297-52-2238 |
| WEBサイトURL | https://bunabuta.jp/ |
| その他の情報 | ※このページの情報は、2025年10月時点のものです。 |
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